僕たちが成長すれば、難しい社会課題に取り組む企業が増える

ICHI INC.を設立して1年2ヶ月が経ちました。再犯防止・更生保護という閉じた業界で、前例もニーズもない取り組みを実現するために、あらゆる手段を使って突破口を作ってきた1年でした。確かな手応えを掴みながらも、もっとスピードを上げねばと焦ることも多いです。応援してくださる皆さんに、今の状況をお伝えできればと思います。

「この業界に革新を目指す人はいません」

この1年で、前途多難という言葉の意味がよくわかりました。「少年院から起業家を生みましょう」「彼らが社会に貢献する人になることを目指しましょう」と言っても、関係者の中で賛同してくれる人はごく一部です。

これまでも多くの事業を立ち上げてきたし、“ゼロイチ”が得意だと言われてきたけれど、誰もイメージできない世界を描こうとするとこんなに大変なのかと思い知りました。

最初のうちはツテもないので、少年院に直接電話して、思いを語って「30分でいいんで時間ください!」と頼み込んで、素っ気なく断られて。やっと会うことができても、提案すらさせてもらえないこともありました。これまでの経験の中で培ってきた自分なりのやり方が全く通用しなくて、どれだけ動いても前に進まない。


そうなると、もうマインドが変わるんです。うまくいかなくて当たり前だと思うようになりました。期待しない。でもあきらめない。

「再犯防止にイノベーションを起こそうと考えているのは、日本で唯一、中馬さんだけです。この業界に革新を目指す人はいません」

と、ある人に言われました。

僕がHIGH HOPEの話をしても、その場にいる人全員が険しい表情のままで、何の反応も返ってこないこともあります。「何やってもあいつらはもう変わらないですよ」と鼻で笑われた時は、喉元まで出かかった怒りをこらえるのに必死でした。

そんな中でも、奇特な方々が興味を持ってくださって、沖縄と東京で少年院・刑務所との連携がスタートしました。やっぱりいるんです、熱い人たちが。再犯防止の現場では、リスク回避が最重要事項です。しかも業務量が多く皆さんご多忙な中、新しい挑戦をすることのハードルの高さを想像すると、頭が下がります。

「少年たちが生きがいを見つけ、自律的に人生を歩み、社会に貢献するプレイヤーになっていく」という目的を職員の方々と共有し、何度も検討を重ねながらプログラムの準備を進めてきました。後日「最初に中馬さんが来られた時、噂になってたんですよ。いきなり電話してきて熱く夢を語ってたやばい人が今度来るらしいぞって」と職員の方が笑いながら教えてくれました。

正攻法ではだめだとわかっていたので、思いつく限りのことを全部やりました。懇親会で官僚のキーパーソンだと思う人の隣に座って、飲みながら事業の意義を語って。その方が熱い人で「おもしろい、やりましょう」と言ってくれたので、もしかしたら社交辞令かもしれないし、その場のノリだけで終わらないように、最後には肩を組んで「皆さん聞きましたよね、今。はい、証拠写真撮ってください!皆さんもう証人ですからね!」と場を巻き込んだり。まぁめちゃくちゃですよね。

少年院でのプログラムの話は、その方のおかげで大きく前に進みました。他にもFC東京さんや、京都市の石倉さん、原田 隆史 先生をはじめ、何もない僕に協力してくれた方々に本当に感謝しています。

初めて法務省に行った日

うまくいかないことばかりだけど、今が一番楽しい

前の会社でも、経営者として自分のやりたいことをやってきたつもりでした。でも今は感覚が全然違います。これだけ前途多難なのに、今が一番楽しいし、全ての事業が心の底からおもしろい。ようやく17年間探し続けた自分の使命にたどりつけたという実感があります。

子どもの頃、父から「友達は宝物」「弱いものを守れ」「困ってる人がいたら助けろ」と言われて育ちました。父の教えを突き詰めていった先にたどりついたのが、HIGH HOPEの事業なんです。生きていくために、痛みや苦しみから逃れるために、罪を犯さざるを得なかった少年たち。彼らがまた他者と共に生きられるように、誰かを助けたり守ったりする人になれるように、自分にできることがあるんじゃないかと思いました。

会社が1周年を迎える前に、その父が突然亡くなりました。自分はこの事業で成功した姿を親父に見せたかったんだと、会えなくなったことで初めて気づきました。父の死を意味のあるものにしよう、この1年間で絶対に成果を出そうと意識が変わり、仕事のしかたや生活を大きく見直しました。

僕らのような実績も知名度もない小さな会社は、知恵を絞らないと資本主義社会の中で生き残れません。何通りかの戦略を同時進行で動かし、勘と巡り合わせを信じて、一つひとつの場に全力で臨む毎日。ちょっと気を抜いたら頭がおかしくなりそうだと時々思います。

僕たちは、国の予算に頼らず、自分たちの事業で収益を上げて、株式会社として難しい社会課題の解決を目指します。

少年が罪を犯す背景には、虐待や貧困、障害、教育、差別などの問題が複雑に絡み合っています。時に迷走しながらも「10代の犯罪を減らす」というビジョンを掲げて1年間がむしゃらに走ったことで、自分たちのやるべきことが見えてきました。多摩少年院で出会った少年たちが、気づかせてくれたんです。

少年院を出た若者が、社会に貢献する人材になる

初めて多摩少年院でプログラムを実施した2024年11月のあの日。6人の少年たちが、想像を超える景色を見せてくれました。2日間、たった4時間のプログラムで、こんなにも表情や目の力、発する言葉が変化するのかと。

もっと継続した関わりができたら、出院後もサポートができたら、必ず良くなると確信しました。やっぱり、ここには大きな希望があると。

裏を返せば、2日間のプログラムだけでは、人生を変えるほどの影響にはならないだろうとも感じました。きっかけができたとしても、その後を過ごす環境が後押ししなければ、変化は続きません。

僕たちにとっては、未知の世界へ足を踏み入れた瞬間であり、会社の今後を左右する勝負の時でもあり、必死に考えてきたことの答え合わせの場でもありました。全身で彼らに向き合いました。当日の様子は、前回の記事を読んでもらえたらと思います。

表現が適切ではないかもしれないけれど、多摩少年院で僕はずっと、ぞくぞくしていました。欲が強いので、“わくわく”では物足りないんです。怖さと緊張をはらんだ“ぞくぞく”を味わった時が一番、生きている実感が持てる。

アメリカでは、デファイ・ベンチャーズという非営利団体がカリフォルニアなどの刑務所で起業家育成プログラムを行い、実際に多数の起業家が生まれています。Googleの従業員や投資家がボランティアで講師を務め、資金調達のサポートも実施。運営費は補助金と民間企業の寄付でまかなわれています。

(出典:アメリカの刑務所で「起業家養成プログラム」開講、再犯率が3%に – NEWSPICKS / 2017.02.01)

今年は協働してくださる企業さんたちとアメリカへ視察に行き、再犯防止の事例を学び、ニューヨークで最先端のアートやサービスを体感してきます。そこに、少年院を出た若者も連れて行きたいと考えています。世界中から挑戦者が集まるニューヨークで刺激を受け、たくさん学び、日本で活躍する人材になってほしいんです。

次世代の社会起業家の希望になりたい

なんで自分はこんなに「社会のために」という意識が強いんだろう、とふと思ったりもします。誰に何を言われたわけでもないのに、勝手に国を背負ってる。自分でも理由はよくわかりませんが、父に言われた「友達は宝物」の範囲を思考が及ぶ限界まで広げてみた結果なのかもしれません。

この事業を始めてから、仕事の場で本気で憤りを感じたり、心が震えたり、感極まって涙が出たりするようになりました。これは、主語が自分じゃなくて「社会」や「日本」、「世界」になったからだと思います。以前はもっと感情をコントロールできていたので、HIGH HOPEをやるようになって自分の新しい一面に気づきました。

経済合理性曲線の図でいえば、僕たちは左上の端っこにいます。この課題をビジネスで解決することができた時の社会的インパクトは、相当大きいと考えています。

(出典:『ビジネスの未来』山口周)

お金にならないという理由で課題解決をあきらめる人が減り、経済性と社会性を両立する起業家が各分野で増えていけば、社会は必ず良い方向へ向かいます。HIGH HOPEは、次世代の社会起業家の希望になるはずです。

少年院にいるのは、過酷な環境で生まれ育った子ばかりです。彼らがもし十分な愛情とケアを受けて育ち、信頼できる大人が近くにいたとしたら、ほとんどの子は罪を犯さずにすんだと思います。

絶望を経験した彼らが、少年院で過ごす1年間でしっかりと自分に向き合い、自律的に生きて働くためのスキルとマインドを学び、社会に貢献するプレイヤーになっていく。ここに大きな希望があるんです。

彼らが生活保護受給者から納税者になれた時の財政効果の試算は、1人あたり1億円を超えます。

冷静に考えると、どうあがいても無理だ、という結論にたどりついてしまうので、真面目になったらあかんと思っています。笑われるくらいでちょうどいいんです。土壌のないところにビジネスを育てようとしているんだから。

0から生み出した1を、10に広げていく仲間を募集します

2024年は、HIGH HOPEの核となる少年院内でのプログラムを実現することができました。

ここからの1年で、複数の事業を立ち上げ、「絶望から希望を生む。つぶされた可能性に光を灯す。」というメッセージを体現する仕組みのプロトタイプをつくります。社会構造を変えるためには、事業を一つずつ立ち上げていくのでは間に合いません。

ありがたいことに、経営者の友人や先輩方、売上数兆円の大企業やスポーツクラブ、アーティストなど、行く先々でHIGH HOPEの話をして、応援やアドバイスをたくさんもらう日々です。そのたびに視野の狭さを痛感し、これまでの思考の枠組みをいかに取っ払うかという自分との闘いが続いています。

そして、僕自身の成長だけでは到底追いつかないので、仲間集めを本格的に始めます。

この1年はまだまだ組織を作れるような状態ではなく、0から生み出した1を10に広げていく個の力がもっと必要です。近日中に採用募集の情報を公開しますので、周りにええやつがいたらぜひ紹介してください!→1/25 公開しました 【採用】プロジェクトマネージャーを募集します!

迷った時は、「HIGH HOPE」という名前に立ち返ればいいんだと、最近思うようになりました。

創業時よりもずいぶん視界が開けた2期目。1人の人間の可能性を信じ、社会に大きな希望を生み出していきます。

株式会社一(ICHI INC.) 代表取締役 中馬 一登