「稼げないのになぜ」「そんな人たちのためになぜ」と言われる領域に、事業を通して希望をもたらす

書き手:インターン生 野田 怜弥

ICHI INC.の代表である中馬 一登さん(以下、中馬さん)に初めてお会いしたとき、「めっちゃテンション高いな」と思った。はっちゃけるタイプではない私は、緊張がますます高まった。

6月24日、岡山少年鑑別所で中馬さんが実施する講演に、私もインターン生として同行させていただいた。講演は第一部が在所少年向けに「アントレプレナーシップについて」、第二部が職員向けに「再犯・再非行防止のために必要な就労支援について」のテーマで予定されていた。

岡山少年鑑別所

少年鑑別所は、面接や心理テスト、日々の生活の様子から、少年の心身の状態や非行の背景を調べる。それらの情報は、家庭裁判所がその少年を少年院に送るのか、保護観察にするのか、判断するために使われる。鑑別所の雰囲気は刑務所や少年院と大きく変わらなかったが、少年たちの様子は少し違った。厳しく教育されている刑務所や少年院とは異なり、服装も自由で「普段通り」の様子だった。

第一部「アントレプレナーシップとは」

第一部の講演が行われたのはレクリエーションルーム。たくさんの図書に囲まれる中、所長を含む職員の方々と私、少年5人が中馬さんの話を聞く。少年たちは、学生がちょっと気だるそうに講義を聞いているような、「普段通り」の様子だった。だからこそ反応が薄く、後で中馬さんも「いつも以上に話すのが難しかった」と話していた。

テーマである「アントレプレナーシップ」は「起業しよう」という話ではなく、自分の人生を自分で切り開く力、自分の経験を価値に変える力、を身につけようということ。少年たちが虐待経験や貧困、社会からのレッテルに苦しみ「どうせ無理だ」と絶望的に捉えていたことを、むしろ人の弱さを知っていたり、ハングリー精神や向上心に変えられる強さであり、可能性だと伝えた。

「仕事の本質は、人の役に立つこと」だと話し、さらに「頭がいい人とは、他者に貢献できる人だ」とも語っていた。他者に貢献するには、相手が何を感じ、何を求めているのかを想像する力がいる。だからこそ、イメージする力を鍛える必要があるのだという。人の役に立てるということは、自分が社会の中に価値を生み出せるということでもある。誰かに必要とされる経験は、自分を信じ直すきっかけにもなる。

 

中馬さんは「自分らしく生きるため、自分が幸せになるために、貪欲になっていい。だけど、今やってることは本当に自分のためになるのかをよく考える必要がある」と語りかけた。例えば、目先の利益だけを考えて闇バイトに加担しても、将来のことを考えると、決して自分の為にも周りの人の為にもなっていない。

今度は「運がいいか」と問いかけると、少年5人の内の4人が「運が悪い」と答えた。もちろん、自分ではどうすることもできない環境や出来事もある。一方で、人との出会いや周囲からの応援によって、新たな機会が生まれることもある。応援される人になるためには、正解が見えない中でも自分で選び、その結果に向き合い、責任を引き受けることが必要だ。その積み重ねが、周囲からの信頼につながり、やがて自分の人生を変える力になっていく。

第二部「再犯・再非行防止のために必要な就労支援について」

第二部は別の会議室に移り、鑑別所職員だけでなく隣接している少年院の職員や、なんと遠方の施設からオンラインで参加する職員もおり、ハイブリッドで行われた。職員たちはそれぞれ真剣にメモをとり、時に唸りながら話を聞いていた。刑事施設と外をどのように繋ぐか、刑務作業を安価な労働から価値創造にどう変えるかについて、京都刑務所や神戸刑務所での実践を事例に話し、少年たちとの関わり方に話が移っていく。

ICHIには、少年院に入った経験のある20代の社員がいる。彼とどのように関わっているかを例に、以下のポイントについて話した。

①社会構造と美意識を伝える
何がダサいのか、何がかっこいい/美しいのかを伝えることで、人からどう見えているかを理解してもらう。その上で「恥ずかしいからしない」と思いとどまれるようにする。

②自分の取扱説明書を作ってもらう
「何が苦手なのか」「どこで逃げるのか」「どこで怒るのか」「どんな声掛けやどんな人なら受け入れられるか」「どんな時に調子がいいか」などを自己認識させ、それをみんなで共有する。何かあったときに適切なサポートができるようにする。

③組織効力感を持てる環境をつくる
メンバーが本気でぶつかり合える環境をつくる。不安定だが、それがむしろチームを一つに繋ぎとめ、この組織にいていいんだと思えるようになる。

また、少年たちは学んだことを実践する場が少なくイメージすることが難しいため、学びや対話だけでなく、実践をすることが必要だと語った。

民間企業が矯正に関わることの意義は

私はここ数か月、政治家でも法務省職員でもNPOでもなく民間企業が、更生支援の分野に関わることの意義と、どう持続的に実践し続けるかを考えていた。この領域は、社会にとって重要でも、多くの人にとっては距離があり、少年院、刑務所、元受刑者、非行少年などの言葉だけで身構えてしまう人も少なくない。

しかしICHIは、単に支援を提供するのではなく、有名ブランドや伝統産業との連携を通じて、矯正・更生の領域に事業として継続的に参入している。それを可能にしているのは、私が中馬さんから感じたように、明るくポジティブで、いつも熱量高く話していること、その姿ではないだろうか。出会う人々は「この人ならやってくれるかも」「(これまで諦めていたけど)一緒にやりたい」と思うようになるのだ。矯正施設職員のその表情の変化と、熱気の高まりを、中馬さんが誰かと話す場において何度も目撃した。彼らの、制度や法律でしがらみが多い立場から見ると、風穴を開けてくれそうな期待を持つのだ。

少年や受刑者たちから見れば、いつも聞くのとは毛色の違う話を、しかも職員が見守る中で外の人が話している。それもまた新しく、「面白いかも」と乗っかってみようと思わせるのかもしれない。

中馬さんは少年たちに「皆さん(少年たち)だけが悪いのか。僕は、社会も悪いんじゃないか、それを作ってきた大人たちも悪いんじゃないかと思っている」ということも話していた。もちろん、罪を犯した事実は揺るがないし、その責任が消えるわけではない。それでも、非行や犯罪を「本人だけが悪い」で終わらせてしまえば、次に同じような状況に置かれる人を減らすことはできない。だからこそ中馬さんやICHIは、「外の目線」で少年たちに希望を持たせ、鼓舞し、自分の力で切り開ける世界なんだと、教えているのだと感じた。そこに巻き込まれる職員たちも、いつの間にか変化の担い手になり、徐々に主体になっていっているのだと思う。私自身も「こんなに楽しそうに、あらゆる出所者や出院者を支援する夢を語っていいんだ!」と勇気づけられた。中馬さんが作る渦をより大きくできるように、より多くの人を巻き込みながら走り続け、世界を変えていきたい。

  


  

野田 怜弥
松下政経塾 第45期生

2000年1月20日熊本生まれ。
子ども兵問題と出会い、研究とNPOインターン生として支援に携わる。現在は「加害者を生み出さない社会」を目指して元受刑者のトラウマケアと就職支援をする会社を起業しようと奮闘中。好きな食べ物は魚の煮つけとカマ焼。好きな昆虫食はハネアリ。